琵琶は遠い昔、遥か遠くの西アジアからシルクロードをたどり、中国を経て日本へと伝わりました。古代ペルシャ(イラン)の楽器バルバドやアラブのウードなど、中央アジアに祖先を持つ不思議な楽器です。
ベンベン♬と現される不思議な音の正体は、琵琶独特の「さわり」と呼ばれる仕掛けにあります。倍音を強調させた、複雑でゆらぎのある音です。弦をはじいて鳴る音は減衰してやがて消えますが、「さわり」をつける事で音を長く響かせる事ができ、かつ糸同士・楽器本体との共鳴も豊かなものになります。大変魅力的なこの音色が琵琶の特徴の一つとも言えます。
しかし、同じ琵琶といえども楽器の個体差は大きく、また、楽器自体の種類も多様です。
先の「さわり」についても、「さわり」をつけている琵琶とそうではない琵琶が存在します。それでは、現在聞くことのできる琵琶の種類をご紹介して参りましょう。
現在演奏されている琵琶の種類
・楽琵琶
雅楽の演奏(合奏)で奏でられる琵琶です。あぐらで座り、琵琶を横に倒した形で構え、しゃもじのような撥を使い演奏します。楽琵琶の音はサワリがなく、気高く澄んだ音色が特徴です。アルペジオ奏法とも呼べるような弾き方を用い、楽曲により調弦を変えて演奏します。撥面に撥が当たる音もまた特徴です。
参考動画>>>【雅楽ハウツー】楽琵琶を弾いてみよう1(平調音取・越殿楽)
・平家琵琶
「平家物語」を弾き語る際に使用された琵琶。この琵琶を使って演奏される楽曲は、「平曲(へいきょく)」と呼ばれ、その他の琵琶楽とは明確に区別されています。 主に琵琶法師(びわほうし)と呼ばれる、盲人の僧侶が演奏したと言われます。室町・江戸の時代は盲人が当道座(とうどうざ)と呼ばれる組織を形成し、琵琶の弾き語りを生業としていました。
参考動画>>>日本 琵琶(平家)演奏 那須与一|To pluck open strings, shamisen (jiuta), Japan. 今井検校勉(地歌筝曲)
・盲僧琵琶(笹琵琶)
盲僧が地神経などを唱える際に使用した琵琶。背中に背負って移動するため、紐を取り付けられる仕様になっているものが多い。琵琶のような膨らみの大きな形の琵琶に比べ、細長い形状をしている。経を唱える以外に娯楽的な語り物なども演じられる。
参考動画>>>最後の琵琶法師「山鹿良之」さん
最後の琵琶法師山鹿良之さんの長編記録映画もございます。(映画館にて拝見しました。生きることと奏することが全部繋がっています。力強い生き様が記録されています。映画「琵琶法師 山鹿良之」)
※そして、この系譜を今につなぐ琵琶「肥後琵琶」の奏者として活躍のコタロウさんのyoutubeもご紹介。ぜひご覧ください。
・筑前琵琶
明治中頃、晴眼者で琵琶の奏者であった初代 橘旭翁(たちばな きょくおう)(本名:橘智定(たちばなちてい)氏が薩摩より薩摩琵琶を学び、楽器そのもの、また奏法や節回しなどを改良して誕生した琵琶楽。現代においては筑前琵琶の中でもいくつかの流派が存在します。
それまでの武士のものであった薩摩琵琶の演奏に三味線の奏法などが取り入れられ、優美で女性らしい曲調が受け、明治中期には女性奏者が一躍人気を集めたことで筑前琵琶が広まりました(現在、男性女性ともに演奏家が全国にいらっしゃいます。)
参考動画>>>琵琶「筑前四弦琵琶と五弦琵琶」 ~伝統音楽デジタルライブラリー
参考動画>>>人間国宝 筑前琵琶 奥村旭翠/琵琶『羅生門』 Kyokusui Okumura – BIWA “RASHOMON”
・薩摩琵琶
戦国時代、薩摩地方に誕生した琵琶楽。島津忠良が武士の士気振興のために道徳的な歌詞を作成、藩の師弟へ習わせたのが始まりと言われます。
薩摩琵琶の中でも、「正派」「錦心流」という流派が存在し、こちらは琵琶が四弦四柱。また、薩摩琵琶から出た「錦琵琶」は筑前琵琶の要素を取り入れており、第三の琵琶樂(金田一春彦)と評されます。
また、現代もっとも新しいとされる「鶴田流」が存在。この「錦」「鶴田」両者は琵琶が五弦五柱。材質は桑が用いられ、撥は黄楊製。演奏時は正座し、楽器を立てて構えます。
参考動画>>>薩摩琵琶「正派」蓬莱山【歌詞なし】須田誠舟 satsumabiwa,houraisan
参考動画>>>薩摩琵琶「錦心流」 錦心流琵琶 全国一水会 古澤史水【西郷隆盛】
参考動画>>>「錦琵琶」「扇の的」新部桜水 NISHIKIBIWA [OGI NO MATO]
参考動画>>>鶴田流 鶴田 錦史 – 壇の浦 (Kinshi Tsuruta – Dan no Ura) 1966
他、各奏者のWEBサイトにも詳しく流派についての掲載がございます。追ってご紹介。
参考リンク